- 2010.03.31 Wednesday
- moto・・・・モトグッチ・整備など
東京モーターサイクルショーに行ってまいりました。正直申しまして今年のモトグッチ・ブースにはあまり期待せずに出かけたのですが、予想に反して先ごろミラノーショー(EICMA)で発表されたコンセプトモデルV12LM Concept (以下、V12LM)を見ることができました。なんでもミラノショーで展示されていた状態のまま、台座ごと箱詰めして送られてきたそうです。
ミラノショー開幕と同時にモトグッチのWebサイトではV12LMの画像を見ることができたのですが、目を引いたのは新しいフレーム、スイングアーム、そしてタンク左右の見慣れないプレート。特にフレームはショーでの画像を見ると大きく張り出した羽根のような造形が目立ちますが、モトグッチWebサイトにはフレームの断面図とおぼしきデッサン画も載っていてそれを見て想像する限り、エンジンVバンクの奥深くには断面が三角形のメインフレームが走っているはずなのです。
モトグッチのエンジンレイアウトだからこそ使えて、スペースのロスを抑えて強度を持つフレームデザイン。これがこのコンセプト・モデルの目玉だろうと考えておりました。
タンクの両側のプレートについては・・・・・・・・あきらかなヒートシンクの形状からなにかの放熱をするのだろうと考え、ヘッドカバーにパイプが入っているのでブローバイガスを冷やすのか?(液化させるために) またはシリンダーヘッドの排気側なので、エンジンのうち最も温度が高くなるプラグから排気バルブ周辺に向けて、経路を独立させて冷やしたオイルを噴射して温度をコントロールしようとしてるのか?と2人であれこれ想像しておりました。なにしろモトグッチは具体的な説明を公にしていなかったので。
このとき
「それにしても何故まだ空冷エンジン」
と志賀が言っておりました。たしかに乗り味というものを重視するオートバイユーザーの想いとは裏腹に、空冷ビッグボアエンジンは環境性能の面で限界に近づいてきています。
さて金曜日の東京モーターサイクルショーに戻ります。
タンク両側のプレートを指して「コントロールバルブ(クランクケースの内圧を)機構では?」という声が聞かれましたが、それはプレートの中央にある円形の凹部が連想させたのでしょうか?でもそれならばヒートシンクは必要ないように感じます。やはりこれは放熱に関係するはず・・・・・・・・。
とても気になるこのプレート、裏はどうなっているのか見てみると取り付けステーが出ているだけで期待していたパイピングなどが見当たりませんでした。そしてオイルやブローバイガスを通すにはどうもこのプレートは薄い気がしてなりません。
このモデルはコンセプトモデルとして発表され、実際にはエンジンが稼動して走るまでの完成度に達していません。言葉は悪いですが部分的にハリボテなのです。ただしそれにしてもこの新しいプレートのボリュームについては、外観上の大きなポイントでもあるのでそうそう変えるわけにもいかないでしょう。ある程度は実現性のあるボリュームが持たされているはずです。・・・・・・膨らむ謎。
後日、ネット上に答えを見つけました。イギリスのモーターサイクル・ジャーナリストであるケヴィン・アッシュ氏がV12LMをデザインしたピエール・テルブランチ氏に取材した記事が見つかったのです。
あのプレートから出ているパイプがヘッドカバーに連結しているのでエンジン内部とつながっているように感じますが、どうやらエンジン内とは行き来のない隔離されたシステムで、真空の経路内にある液状の物質が封入されているというものなのです。
その働きを説明します。
排気バルブ周辺の高温により沸点に達した物質が蒸気になってパイプを通りプレートに入ってゆく。そこでヒートシンクの効果で冷やされ、再び液体になってパイプの下部を流れ落ちシリンダーヘッドに戻る。この繰り返しによってエンジンの最も高温なシリンダーヘッドの、特に排気バルブまわりの熱を集中的に放出できるのです。しかも勝手に循環してくれるのでポンプなども不要、パワーロスがありません。
ある物質とだけ書いているのが気になるとは思いますが、モトグッチ社としてはまだ選定に至っていないようです。ものによっては漏れて化学変化を起こす危険があるので、慎重にならざるをえないでしょう。ただインタビュー内でテルブランチ氏はナトリウムを一つの例としてあげています。
このシステムの狙いは最も高温な部分を集中的に冷却して、エンジン全体の温度のコントロールは従来のシステムが担っている点にあります。これは一般の水冷エンジンよりもきめ細かい温度コントロールと言えます。テクニカルレポート「1100Sport-inj./DAYTONA-RS 最新は最良? 」をご覧いただくとよいのですが、エンジンは低温であればあるほどよいわけではなく、ある範囲の温度であることが必要なのですから。モトグッチはただ単に空冷エンジンにこだわっていたのではなく、既存の冷却システムを凌駕できる方法を模索していたのですね。
これが市販化される日が楽しみです。その時はまた詳しく調べてお知らせしたいと思います。またこれ以前に現行V12には排気バルブ周辺を冷却するアイデアが採用されているのですが、別途ご紹介いたします。
mas