Home

V65 再生記 <4>

v65_011.jpg
 

今回はシリンダーヘッドを組み始めます。週に1回か2回、終業後にひっそり作業しているだけなので非常にゆっくりと進行しております(笑)
 
バルブとバルブガイドは振れが出てましたので交換します。メーカー指定の許容最大値は直径で0.055mmなのですが、画像のようなチェックもできます。
 
バルブガイドの頭を指で押さえて、バルブを勢いよくパッと抜く!すき間が小さければポンっと音がするのです。わたしのヘッドは・・・・・音がせず、ヌルッとバルブが抜けてきました(泣)


 
 
V65_012.jpg
 

このシリーズのエンジンは、現在のセールスの中心機種になったV7まで引き継がれてとても息の長いものになりました。2本のバルブはまっすぐ垂直に並び、ピストン燃焼室を持つ、シンプルというか地味な印象を受けるのですが。
 
でもそのおかげでプレスを使ってバルブガイドの交換ができるのです。お客さまのエンジンの場合はエンジン加工工場に依頼するのですが、自分のエンジンなのでせっかくだからトライしてみましょう。
 
まずヘッド全体をよく加熱してからガイドを慎重に抜きます。そして新しいガイドを傷めないよう特殊工具も使って圧入します。そしてゆっくり自然に冷やす。
 
ガイドはあらかじめバルブを通してチェックしていたのですが、圧入後は狭くなってバルブが入らなくなります。そこでリーマ通しをして内径をバルブステムに合わせてゆきます。削りすぎたらアウト!!自分のなので極力クリアランスを小さくしてみたい、でも狭すぎて焼きついたら・・・・・なんとも神経を使う場面が続きます。


 
 
V65_013.jpg
 

続いて擦り合わせをします。
と簡単に書きましたが、ピンとこない方のためにもう少し書くと、新しいバルブガイドとバルブをシリンダーヘッドに組むので、バルブシートとバルブの密着を良くするため(密着が足りないとよい圧縮が得られません)の作業です。
 
バルブとバルブシートの当たり面にコンパウンドをつけたうえで、エアフラッパーを使ってバルブを高速で往復させバルブシートに打ち付けることによって双方の当たり面がなじむ(微量に削られる)のです。バルブが並んだ画像の左のインテークバルブに白く当たりがついた跡が見えますでしょうか。これは少々頑張りすぎてしまいました。少し当たりが広すぎています。
 
その次の画像は下準備を終えていよいよシリンダーヘッドに各パーツを組み込むところですが、まずバルブステムにモリブデン・ペーストを擦り込んでいます。ブラシでゴシゴシやります。普通に塗布しても作動初期の潤滑不良を防ぎますが、擦り込むことによってその効果が増すのです。



V65_014.jpg

いよいよ組み付けです。コッターに脱落防止のグリスをつけてバルブステムに置いてゆきます。ちなみにバルブステムとコッターとリテーナーのマッチングは事前にチェックして、どのバルブをどこに使うかも最初に決めてから各作業をしています。
 
バルブを組んだら、ハンマーなどで軽くショックを与えて収まりをチェックします。・・・・・が、余り強く叩いたり、斜めにショックを与えたりしたら鋳鉄製のバルブガイドがコロッと折れてしまったりするので要注意です。
 
こうしてシリンダーヘッドが完成しました。


 
 
mas
  • -
  • -

V65 再生記 <3>

V65_007.jpg
 

エンジンに続いてトランスミッションも分解しました。全ベアリングの交換を前提とした分解なのでそこはよいとして、そのほかはたいていの場合何も起きていない部分のはずでしたが・・・・・まさかの1速ドリブンギア(右画像上部のもっとも大きいギア)の錆・腐食を発見しました!!!
 
まあ「開けておいて良かった」ということになります。急遽部品を手配しましたが、なぜかキレイにギア1枚だけのダメージです。走り始めてからミッションケース内で起きた(水分・湿気により)というより、組み込み前に何かしら原因があったのでは?と思わせるものがあります。


 
V65_008.jpg
 
続いてはファイナルミッション。
 
ピニオンシャフトをホールドするテーパーローラーベアリングのガタ発生は想定内でしたが(ガタが無くても、ベアリングはもちろん交換予定だったので)、こちらにもまさかの事態!!異常磨耗が起きていました。ピニオンギアにかじったようなキズ、リングギアには妙に滑らかに潰されたような磨耗。
 
これはオイル管理の悪さが原因かと思われます。定期的なオイル交換を怠ったか、不適正なオイルや粗悪なオイルを使っていたか、このまま走れば恐らくヒューンヒューンと唸り音が聞こえるでしょう。・・・・・・と、他人事のように書いていますが、正直これは手痛い出費になりました。
 
整備履歴の見えない中古車を買うときは、内部でこういうことが起きているものだと考えてください。「調子はいいですよ!」と言うセールストークはごく普通に聞きます。ですが、わざわざファイナルミッション内部まで確認してそう言っている業者がそうそういるとは思えませんよね?
 
もちろんリパラーレでも中古車販売時になかなかそこまで(ファイナルミッション分解整備)はいたしません。ただし、それは前オーナーの施した整備履歴がわかっているからであって、定期的な整備をしていれば異常は起きていないと推測できるからなのです。
 
V65_009.jpg
 

トランスミッション・ファイナルミッションの分解整備では、ベアリングを抜く作業が発生しますが、これは無理やり叩き出したりせず、ケースを加熱したうえ、必要があればプレスを使用して慎重に抜くことが大切です。
 
ケースはアルミ合金です。幾度もベアリングの出し入れをすれば甘くなっていってしまいます。オートバイの車歴のうち、そう頻繁にやる作業ではありませんが少しでもダメージ(変形など)を防ぐ用心が必要になります。 
 
加熱する効果はなにかと言いますと、鋼鉄のベアリングよりアルミ合金のケースのほうが膨張係数が高いので、その差によって"かんごう"が甘くなって抜き易くなります。ちなみに加熱後は決して急冷せず、緩やかに自然に冷やしてケースにひずみが生じないようにします。


 
V65_010.jpg
 

エンジン・トランスミッション・ファイナルミッションを全て分解しました。傷んだ塗装・錆などを落として、ネジ部のロック剤なども落とし、キレイさっぱり!いよいよ組み立てに移ります。


 
 
mas
  • -
  • -

V65 再生記 <2>

V65_004.jpg
 

V65の作業はゆるゆると進んでいます。エンジンの分解をしつつパーツのチェック・・・・・いや、そもそも分解はパーツをチェックし、必要とあらば交換するためにするんですね。また、分解したら再利用はしない部品もあります。コンロッドメタルやコンロッドボルトなどがそうです。
 
たまに「腰下(シリンダーより下、クランクシャフトまわりを指して世でよく言われている表現)の整備は走行何kmくらいでやるんですか?」とお客様に聞かれることもあります。また私がこんなことをしているので「ヤラネバナラナイ」と強迫観念にとらわれてしまう方が出るかもしれません。
 
が、基本的には何kmでやらなければということはありません。もし異常を感じることがあればそれを解消するために着手すればよいと思います。エンジンはオートバイの心臓であり、エンジンの肝がクランクシャフトです。モトグッチはシンプルで頑丈なクランクシャフトを堅牢なクランクケースでホールドさせています。普通に使っていて、オイル管理等のメンテナンスをきちんとしていれば滅多に壊れるようなところではありません。
 
ちなみに数年前に私のカリフォルニアが走行10万kmを越えたとき、若干のオイル消費もあったので「いい機会だから」とエンジンの整備をしましたが、それでもヘッドのオーバーホールやピストン&リングの交換などシリンダーから上がメインで、「ついでに」コンロッドビッグエンドをばらしてチェックしましたが、何も起きていませんでした。(何も無くてもコンロッドボルト、メタルは無条件交換しました)
 
今回のV65は「使えるエンジン」ということで輸入しただけで、実際の状況は皆目わかりませんでしたし、「中身を新車のようにして」乗ろうと思いましたのでこのような作業をしています。


 
V65_005.jpg
 

さて、さも「やらなくてよい整備」かのように書いていますが・・・・・・・恐らくなにもないと油断していたらクランクシャフトのスラストメタルが潰れていました!!画像左側の半円形の部品です。
これはクランクシャフトが前後に動きすぎないようクラッチ側でクランクシャフトをホールドしている部品です。クランクケースとクランクシャフトをじかに接触させず、自身もオイルによって磨耗から守られている、はずなのですが、これは後ろ側が偏磨耗していました。ひょっとして前オーナーはクラッチレバーを握ったままでいることが多かったのか?この傷みようはもしかすると異物を噛んでいたのかもしれません。前段と矛盾しそうですが、やはり整備に無駄は無いものですね〜(笑)
 
画像右はクランクシャフトのメクラ蓋を外して、クランクピンのジャーナル内に溜まったスラッジを掃除しているところです。これはこんな時でもないとできない整備です。クランクシャフトジャーナル内をオイルに混じって通過していたスラッジが強大な遠心力で内壁にこびりついているので、これを掃除します。その後メクラ蓋にネジロックを塗布して組み付けました。


 
V65_006.jpg
 

これはオマケもいいところなのですが、こんな時でもないとできない作業をもうひとつやりました。ケース上部のリブに水抜き穴を開けたのです。お気づきですか?洗車のあとでなかなか消えない溜まり水・・・・・。ミッションケースにも溜まりやすい箇所がありますよね?
 
スタッドボルトは全て一度はずして、いざ組み付け時にはシール性のあるネジロックを塗布して再装着することになります。実はここからオイルが出てくることもあるのです。鋳造されたクランクケースに「す」ができていて、そこを通じてオイルがにじんでくるようです。最初は出ていなかったのに何年か乗っているうちに「す」が通じたのか、オイルが出てくることもあります。
 
「す」というのは鋳物の部品内部に残る小さなすき間(空洞・割れ目?)です。鋳造の過程のうちおもに冷却&収縮時にできるそうで、なかなかこれの発生をゼロにはできないそうです。
さきほどケースのリブに水抜き穴を開けたことをご紹介しました。あれは薄いリブなのでやりましたけれども、鋳物の部品にあとから穴を開たり加工するのはなるべく避けたほうがよいかもしれません。例えばシリンダーヘッドのツインプラグ化やオイルラジエーターの増設のためにオイルラインをあけるなどする際、潜んでいる「す」に通じてしまってそれまで無かったオイルにじみが発生した事例があると聞いたことがあります。なかなか難しいものですね。
 
クランクケースは塗装を剥がして塗りなおすつもりだったのですが思ったより地肌の傷みが無く、「このままでもいいかなあ?」などと・・・・・・・
いろいろ楽しんでおります(笑)


 
 
mas
  • -
  • -

V65 再生記 <1>

以前から650ccでやってみたいことがあったのですが、ひょんなことからV65フロリダの書類付きフレームを入手しまして、これを再生して乗ることにしました。


 
V65_001.jpg
 

フレーム入手から3ヶ月後、イタリアからエンジンやタンクなどが届いたのでフロリダもバラバラにして、とりあえず現在そろっているパーツを並べてみました。
 
もちろんエンジンやタンクは中古です(笑)。ことにあたってルマン1000を売却して再生資金を作ったわけですが、ざっと計算してみるとすでに資金枯渇必至!!中古で済む部分は中古でまかなう予定です。


 
V65_002.jpg
 

さあいよいよ、届いたエンジンのチェックからV65再生作業のスタートです。走行距離不明の650ccエンジン(V65SPのもの)なので、クランキングさせるのも、シリンダーヘッドをはずしてシリンダーを見るのも、正直ドキドキしましたが、若干オイル下がりの痕跡があるくらいでホットしました。
 
画像右下はピストンリングの合口すき間の計測の様子です。
シリンダーボトム付近でオイルリングの合口が1.1mm!!これは広いです。よくオイル上がりしませんでした。新品のオイルリングでは0.4mmと規定値内(0.20〜0.45mm)なので、ピストンリング交換のみとします。
 
シリンダーはあまり減らずにピストンリングが減る。ニグジル鍍金加工が施されたモトグッチのシリンダー、さすがです。(ニグジル=niguzil、ニカジルではありません。モトグッチ社がパテントを持つ技術です)


 
V65_003.jpg
 

V65のエンジンにはファーストシリーズとセカンドシリーズがあります。その判別はピストン燃焼室とシリンダーヘッドの形状を見ればわかります。画像のように楕円の燃焼室と、シリンダーヘッドのプラグホール中心からフィンまでの長さが59mmのものがファーストシリーズです。
 
そして、セカンドシリーズは真円に近い燃焼室形状になり、燃焼室形状変更にあわせてプラグが位置変更され、フィンまでの長さは53mmとなりました。
なぜ形状変更を???国産メーカーもよく使うというフレーズ、「機能向上のため」としておきましょう(笑)
 
--------------------------------- 
さて、こんな感じで始まりましたが、今回ボルト1本ベアリング1個に至るまですべて分解してきちんとしたうえで組もうと考えています。その全てをというわけにはいきませんが、経過をときどきご紹介しようと考えております。 
 
mas

  • -
  • -

オイル管理

01.jpg
  
02.jpg
 

少し前ですがBREVA750がファイナルケースからのオイル漏れで運び込まれました。少し前に他店で修理したのに・・・・というお話を踏まえて、オイルシールの交換とともに入念にチェックしました。
 
案の定、ボールベアリングが傷んでいました。オイルシールが新品なのにオイル漏れする・・・・・・ベアリングの磨耗により振れが起きるためにオイルシールのリップが押されてオイルが漏れるというパターンもあるのです。
 
度重なるオイル漏れはファイナルケースの内圧が上がるからだ、と新たにベントを設ける方もいるようですが、上記の点も考慮していただけたらと思います。ちなみにBREVA750、V7、イモラ系などのファイナルケースは独立していて容積が小さいのでベントが設けられていますが、ルマン系などはファイナルケースとスイングアームのトンネルが通じているので容積が大きく、内圧の変化に対応できています。


 
03.jpg
 

そして、ケース内はご覧の通り、尋常ではない汚れ方をしています。錆が発生したあとと見受けられました。エンジンに比べファイナルケースのオイル管理は軽視されがちのようですが、きちんとしていないとベアリングの早期磨耗を招いたり、こうした錆の発見が遅れたりします。
 
ギア面には高いストレスがかかるのに、ギアオイルではなくエンジンオイルとおぼしきサラサラなオイルが入れられていることもありました。
 
そして上画像のピニオンシャフトを触ってみると・・・・・・


 
04.jpg
 
05.jpg
 

ベアリングの異常磨耗が進んで、スラスト方向にガタが出ていました。画像から、動いているのがわかりますか?
  
外見上は単純なオイル漏れでしたが、実際の症状は重く、オイル管理の重要さがよくわかる事例となりました。
 
mas

  • -
  • -

カムギアトレインというもの

a01.jpg

中古のV10チェンタウロです。このほど買っていただいたお客さまが、以前からお付き合いさせていただいていた方だったこともあり、ひとつお願いをさせていただきました。それは以前から気になっていたチェンタウロのメカノイズを減らす方法のテストです。実は何台かのチェンタウロで年々メカノイズが大きくなっていくのを目の当たりにして長く気に病んでいたのでした。
 
チェンタウロあるいはデイトナのアイドリング・低回転時に発生するガッシャガッシャガッシャガッシャというメカノイズの源はオーバーヘッドカムシャフトを駆動するために、従来のカムシャフトがあった場所に位置するアイドラーシャフトを回すギアトレインにあり、ノイズが徐々に大きくなっていった原因はこのギアがアルミ合金(以下アルミ)で作られていたことにあります。
 
以下、このエンジンにおいてアイドラーシャフトに組みつけられたギアはアイドラーギアとでも言うべきなのでしょうが、他機種エンジンとの比較上、この稿では総じてカムギアと書かせていただきます



a02.jpg

この画像は以前持ち込まれたルマン3に取り付けられていたアルミカムギアセットです。よく歯面を見ていただけたら荒れているのがわかると思います。いっとき一部でもてはやされたこの部品ですが、ご覧の通り耐久性はありません。
 
とある自動車メーカーのエンジニアから「アルミのギアを使える場所というのは、プラスチックのギアでも済むような場所」と教えていただいたことがあります。アルミカムギアを着けた方は一度チェックされてはいかがでしょうか?磨耗が進んでいたら、外したチェーンスプロケットをお持ちだと思いますので戻せばいいのですが、その際はチェーンとチェーンテンショナーはぜひ新品を使ってください。



a03.jpg

さて、最初の画像にあるタイミングベルト・プーリー・ベルトハウジング・カバー等々をはずしていくとギアが現れます。左画像の真ん中に位置するのがクランクギアですが、耐摩耗性をあげるためにここにはアルミを使っていませんので、前述のアルミ対アルミの社外品カムギアトレインよりはだいぶマシになっています。

ギアをはずすと右画像のようになります。上部のギアのようなものはアイドラーシャフト(OHVエンジンにおけるカムシャフトの位置)に取り付けられていて、これと左シリンダーの前にあるセンサーによりエンジンの回転位置を検出しています。



a04.jpg

タイミングチェーンを組み付けました。

チェーンは伸びが生じるのでカムギアトレインのほうが有効・・・・などと言われていたような覚えがありますが、ギアにアルミを使うならそれは大きな間違いです。チェーンは確かに伸びます。ですが実際にチェーンの伸びがエンジンの作動に影響するのはクランクスプロケットとカムスプロケットのあいだに位置する、上の画像で言えばわずか5ピン分なのです。もちろんチェーンの伸びやチェーンテンショナーの張力の程度に左右されますが、そのあたりがきちんとしているならば磨耗が進んで音が出るようなアルミ製ギアによる誤差に比べたらわずかなものであると言えます。
 
たしかに一般のオーナーさんの印象としてもギアトレインのほうがメカニカルにそして高性能に見えるでしょう。ですがやるならばモトグッチもかつて初期のV7Sportに使っていたようなスチール製のカムギアにするべきでしょう。



a05.jpg

タイミングカバー・プーリーなども取り付けて、ベルトを張りました。
もうひとつあらためて書いておきたいのは、このシステムがヘッドのカムシャフトを駆動するものだということです。
 
カムシャフトは回転を与えられてカム山によってバルブを押すわけですが、カムの頂点を越えたあとはバルブスプリングの反力によってカムが押し戻されるため回転速度が増します。スムーズに回っているように見えて、実はカムシャフトの回転は脈動しています。ですからカムギアの歯面は順方向ばかりではなく逆方向のストレスも受けているのです。最初に書いた「低回転時に発生するガッシャガッシャガッシャガッシャというメカノイズ」はこの歯面両面の磨耗が進んでバックラッシュが過大になったためだと考えられます。またアルミ製であるがゆえに音がより響いていることも考慮すべきです。



a06.jpg

いざ完成したチェンタウロ、エンジンをかけてみると「ドゥルルルルル」と迫力はそのままに落ち着きのある期待通りの音になりました。今回の整備はこちらがお願いしたことなのでリパラーレの負担になりましたが、出費以上の成果を確認できてよかったです。現在このチェンタウロは納車を待つばかりとなりました。
 
ちなみに、チェンタウロやデイトナののちに発売されたコンペティションモデルMGS01では、実はカムギアではなくチェーンが装着されています。モトグッチ社でもアルミ製カムギアのデメリットが確認されたのでしょう。そもそもモトグッチ社は長い経験の中で、やって良いこと悪いことの蓄積があるメーカーだと思っています。デイトナ開発のころモトグッチ社は不調を打開すべく社外のアイデアを取り入れたりと努力をしていたのですが、もしかして古きエンジニアの意見をあおぐちょっとの余裕が無かったのかな?などといらぬ想像を巡らせています。

*この稿の内容についてはテクニカルレポート12で図解とともに解説していますので、そちらもぜひご覧ください。 
 
mas

  • -
  • -

SPINAフレームに関して

初めて整備をさせていただくお客様のSport1100が立て続けに入ってきましたのでちょっとご案内させていただきます。

DAYTONA1000から採用されたこのフレームの腰まわりの部分。このサイドプレートの取り付けボルトは必ず換えることにしています。初期のテーパードボルトを使用しているものでは交換できないのですが、それ以降ならステンレスのキャップボルトに換えています。というのは純正のボルトは恐らくサイドプレートから突出させないように頭が薄くてすむ6mmのヘキサゴンレンチで締めるタイプを使っているのですが、それでは10mm径のボルトをきっちり締めるにはトルクを上げづらいため、リパラーレでは8mmのヘキサゴンレンチで締められるボルト(尚硬度のあるステンレスボルト使用)に換えるのです。


 
05.jpg
 

このフレームはかつてDrジョンが走らせたレーサーをベースにしていますが、やはりメーカー開発とは異なり熟成が足りなかったようで、初期のものは走らせると「どこに行こうとしているのか!?」と一抹の不安を感じさせたのが正直な印象でした。
そして市販後徐々に改善されていきます。下記スポーツモデルの変遷参照
http://www.motoguzzi-jp.com/technical/modella_s/modella_sportivi.html
フレーム図(初期)
http://www.motoguzzi-jp.com/technical/modella_s/ka_frame.html
このサイドプレートですが、アルミ製であり、かつステアリングヘッドと等しく重要なスイングアームピボットを保持する大切なパーツです。きちんと締め付けて剛性を保つ必要があります。
が、多くは緩んでいます。通常ボルトはメーカーラインでの組み立て時にトルク管理をされていますが、金属の縮み、ボルトの伸び、ワッシャーのへたり、塗装の縮みなどの複合的要素により緩みが生じていると考えられます。(言わば緩み状態です。ナットが緩んだわけではないことがおわかりでしょうか?)ですから納車段階から増し締めと、叶うならばご紹介したようなボルト交換も必要です。

特に一番上に位置するボルトはエアクリーナーケースを外さないとナットにスパナがかかりませんので、そこらへんがきちんと増し締めが施されていない原因かもしれません。ですがそれを面倒と忌避してはいけません。どうか整備業者にこの点をご依頼・ご指摘ください。ご不安な方は他所で買われた車輌でも構いませんのでお持ちください。

ちなみに増し締めの基本ですが、必ず一度緩めてから締めなおしてください。

mas

  • -
  • -

東京モーターサイクルショー 2014

10mc01.jpg

去る3月28日、東京モーターサイクルショーに行ってきました。3週間も経って今更ですが(笑)
 
モトグッチブースは、ピアッジオグループジャパンの一角にありました。でもなんだか一番奥で目立たなかったのが残念です。4メーカーを出展するグループなので仕方ないのですがどことなく序列を感じます(笑)。愛が感じられないと思ってしまうのはグッチストのひがみでしょうか?まあでもいいでしょう、金主が次々に変わってもモトグッチの強みは、ゆるがないアイデンティティを持っていることなのですから。陽が当たっても当たらなくてもそこに変わらず存在できるのはしっかりした歴史と多くの古いファンを持つ厚みによるものでしょう。
 
ブースにはカリフォルニア1400をメインにV7が展示されていました。このカリフォルニアはモトグッチの最大排気量エンジンを搭載しています。そういえばスズキブースには昨秋のモーターショーにも出されたリカージョンという600cc並列2気筒インタークーラーターボ車が出ていました。これは4輪車での省エネ技術として定着しているダウンサイジングという手法にそっているのでしょう。エンジンを小型化(小排気量化)して、過給機で補うのです。排気量を小さくして、従来捨てるだけの熱量だった排気ガスを利用してパワーを得る。高効率化、低燃費化の手法と言われています。

 

10mc02.jpg

さて一方モトグッチのカリフォルニア1400はというと、排気量を増すことで希薄燃焼でもトルク(トルク感)を得られるようにしているのだと思います。そうして排ガス規制をクリアしつつユーザーの要望に応えて従来の乗り味をなるべく失わないにしている。この小排気量化と大排気量化を比較して、どちらが正解というものでもないと思いますが、後者のほうは今後の開発には苦労するんじゃないのでしょうか。このカリフォルニアでボアが104mmですが、これをあと何ミリ広げられるでしょう?火炎伝播の速度以上にボアを広げても混合気を燃やしきれないのでガソリンエンジンのボアにはある程度限界があると言われていることとオートバイである以上スペースにも制限があるからです。
 
ボアについてはツインプラグで対応すれば?と言う向きもあると思いますが、着火点を倍に増やしても燃焼時間が半分になるわけでもありません。現実にはプラグをつけることができる場所は所詮限られているので、それが燃焼時間短縮のための最適な位置にあるわけではないからです。ほかにボアが大きくなれば大きくなるほど熱ひずみによるオイル消費の増加の懸念も考えられます。
ちなみに、よくガソリンエンジンのボアの限界は150〜160mmと言われるそうで、それは20世紀前半の航空機レシプロエンジンの開発のなかで出た数字だということですが、これをオートバイエンジンの参考にするにはやはりスペースの問題と、どこまで回転数を上げられるかという問題があるように思います。

 

10mc03.jpg

さて、車体メーカーのブースを離れてさらにウロウロしてみます。
モーターショーと違ってパーツメーカーの技術的な展示は少ないなか、MITSUBAのブースに展示されていたブラシレスACGスタータ(ACG=ACジェネレーター)など眺めていましたら、スタッフの方が「今日は何をお探しですか?」と声をかけてくださいました。慌てて「いえ勉強しようと思って見ているだけでして・・・・・汗」
スタッフさんが「アイドリングストップのニーズから」とおっしゃる、私が見ていたACGスターターは従来使われているACGと同じサイズですが、これで始動できるのは150ccエンジンくらいまでだそうです。

ちなみにさらに大きいエンジンを始動するには、より大きなトルクが必要→強い磁界を得るためにステータコイルの巻き数を増やす(電流を変えないという前提)→巻き数とともに長くなるので抵抗が増えるので電線の線径も太くする必要がある→モーターが大きくなる。他にも要素があるかもしれませんが基本的にはこうなると思います。ですので発電に足るサイズであっても大型バイクのエンジンを始動するには小さすぎるのですね。

さらにスタッフさんは「センサーのスペースも必要ですので」ということをおっしゃいました。「ん?センサー?」と内心思いつつブースを離れた馬鹿な私は、マブチモータのように「電気を流せば回る」くらいなイメージで話を聞いていたわけです。元はACGだから恐らく3相(MITSUBAのHPにはそこまで書いてありませんでしたが)なので、センサーから角度情報を得て順番に電流を流す。脳内妄想空間でリニアモーターカーがゆっくり走り始めました。
ときどきお世話になる知恵袋氏に電話すると、1極に電流を流して磁力を発生させたあと2極めにはじわっと電流を流して磁力を増し1極めに引っ張られていたバランスを崩して(123123と繰り返し)回転につなげる、という説明をしてくれました。「じわっと」というコントロールまでやっているのですね。




せっかくなのでモトグッチにアイドリングストップ機構が搭載されるか考えてみました。コストなどは別として。

まず、アイドリングストップという行為は省エネとCO2排出低減に有効な手段です。とはいえエンジンを切ってからセルモーターでの再スタートを繰り返すとバッテリーの消耗と接点を有するセルモーターの損傷が心配です。それ以外にも日本自動車工業会はエンジン停止中に「エアバッグなど安全装置や方向指示器が作動しない」こと、オートバイには関係ないですが「ブレーキを何度か踏むと効かなくなる」(サーボが効かないので)ことなど手動アイドリングストップの注意点を挙げています。



08.jpg

ということから、できることなら採用したいACGスターターですが、モトグッチは他社に比べて搭載しやすいエンジン形式かと思います。いにしえのV7やBREVA1100以降のモデルで発電機を置いているように、Vバンクのあいだに大型化したACGスターターを置くスペースがあるからです。ただ、大型化と言ってもコイルの巻き数を増やすためにACGスターター本体の径が大きくなりすぎるとVバンクに収まらなくなります。ステータを複列化(缶入りパイナップルの切り身が重なっているイメージ)することで巻き数を増やすということはできるのでしょうか。
次にクランクシャフトがジェネレーターを回す分にはよいとして、始動時にスターターがクランクシャフトを回す高トルクにベルト駆動で耐えられるでしょうか。V7やBREVAではベルトのスリップを防ぐためにオルタネーター自体の位置を調整することでベルトの張力を得ていますが、4輪車のシステム(4輪では統合型スターター、ISGシステムと呼ぶようです)を参考にすると、より大きな減衰力を発生できるテンショナーをあらたに装備しないとやはり無理なようです。
もうひとつはバッテリーの問題です。大容量バッテリーを積むために車体設計からバッテリースペースを考え直さないとならないでしょう。頻繁にアイドリングストップした際の対策も必要な気がします。大電流充電に耐えるバッテリーとか、残電力が少なくなったらアイドリングストップを自動停止するとか。でも残電力は電圧だけではわからないのか・・・。また知恵袋氏に電話しないとならないようですね。

結論ですが、こうしてみるとモトグッチへのアイドリングストップ機構搭載は意義は多少あれど、まだまだ難しいように思います。そのぶんパーキングエリアなどで長いアイドリングをさせたり空ぶかしをしたりの無駄な行為をやめたほうがよほど・・・・・と走り回って何も無し(笑)な話になってしまった東京モーターサイクルショー脱線レポートでした。



mas

  • -
  • -

倍返しだっ!

昨年の新語流行語大賞は4語が年間大賞を受賞するという結果に終わりました。過去にも複数の大賞という年があったそうで、たとえば近年では2008年の「アラフォー」と「グー!」。思い出しましたか?授賞式に出た方の名前も覚えてますか?
 
全受賞記録がネットで見られます。なかなか面白いです。初期は新語に金銀銅賞、流行語に金銀銅賞と設定していたことを知りました。大賞は1語という規定はないようですが、今回のように絞りきれないのであれば金銀銅と特別賞くらいに順位をつけてもいいのではないかと感じました。そうでなければ錚々たる選考委員の方々にとっては簡単すぎる作業に違いありません。

ちなみに私なら「倍返し」を選びます。ほとんどテレビドラマを観ないのにあのドラマにかぎっては予告CMの迫力に釣られて初回から録画して観てしまったものですから、もっとも馴染みがあるというだけの理由で。ですが、この言葉を聞くうちに自分の仕事にあてはまるものがあると気づいたのでした。

いや、お客様への「復讐」ではありませんよ!(笑)



1201.jpg

昨年のことですが、そこそこ汚いルマン3を買ってくださったお客様がいらっしゃいました。リパラーレにおいでになったことがある方はご存知かと思いますが、リパラーレに置いてある中古車はあまり磨かれていません。それは私どもが磨いていないからであって本当はよくないことなのですが、日々の整備のほうに気が奪われてなかなかゆき届きません。そんな状態ですので「ではこれ買います」と言ってくださると、それだけ信用して店を選んでくださったのかと気持ちが引き締まるものです。

そういうときこそ「倍返し」をと思わずにいられません。このときは中古新規登録をしたので車検整備と等しい通常の整備があり、前オーナーが置いていらした期間が長かったことに対応する整備があり、さらにユニバーサルジョイントやカムチェーンテンショナーの交換などをいたしました。この場合、ユニバーサルジョイントは距離相応に作動が軽くなっていたものの「まだまだ要交換と言うには早いな」という感じでしたが、あのときのお客様のご様子を思いだすにつけ、「いずれはガタが生じて交換するようになるならいっそ今・・・」と中古車でありながら予防整備の面でも深い領域に踏み込んでいくことになってしまうのです。
ユニバーサルジョイントを換えるだけでなく、当然ジョイントをホールドするベアリングも換えなければなりませんし、ついでにこの一連の整備の際に姿を見せるトランスミッションのレイシャフトオイルシールも交換しました。なんだかこまごまと書いておりますが、これらのパーツってかなりのお値段になるんですよ!!書かずにはいられません。以前知り合いの酒造の社長さんが「いろんなメーカーで山田錦を使うとそれをラベルに書かずにいられないのは山田錦が涙がちょちょ切れるほど高いからなんですヨ」と話してくれたのを思いだしています(笑)

このお客様はそこそこ汚いルマン3を、その完成形も見られない状態でリパラーレが提示した金額を黙って払ってくださり、またこのルマン3がそこそこ傷んでおりましたのでかなりお待たせしましたが、これまた黙ってお待ちくださいました。それだけに私どもは借りを作ったような心持ちでしたので、それ以上のものをお返ししたつもりです。いままでに何人か同様に、店をまるまる信用した買いかたをされた方がいらっしゃいました。バッテリーがあがったままエンジンすらかからないモトグッチ、初めていらしてたまたまあったモトグッチを、わずかな会話のやりとりだけで買われる方がごくたまにいらっしゃいます。変な言いかたですが「人使いがお上手だなあ!」と感服するばかりです。あまりにも気持ちよく買ってくださると「あれもやっておこう」「ここもやっておこう」と手間も時間もかけてしまい、いつの間にか利幅を狭めていたなんてことがままあります。けれどもそういうときは「このお客様ならいずれまた整備にも持ってきてくださるだろうし」と率直に思えるものなのです。
実際中古車を売るのにろくに洗車もせず、エンジンの音も聞けない状態で「いかがですか?」なんて決して丁寧な販売方法ではないと思います。ですが、それでも現状の向こう側にあるものを見越していただける、私どもの仕事の質の面で信用してくださったお客様に感謝するばかりです。

お客様のことに関する内容を書くと、どのタイミングで書いてもどんなに一般的なこととして書いても、「あれは自分のことなんじゃないのか」と気に病まれる方が出てしまうのでは?と書きかけては止め、書きかけては止め、なかなか筆が進まないのですが今回はちょっと書いてみようと思います。
さまざまなご相談にお見えになるさまざまなお客様は当然ご自身の「こうしたい」というお気持ちがあってそれは構わないのですが、それに沿った応えが得られない場合はあまり耳を貸していただけない場合があります(話し方が悪いのが原因かもしれませんが)。さらに困りますのはすべてが解っている様子を示される方もいらっしゃってご説明を続けることもできないことだってあります。
わざわざお店までおいでいただいたのですから、こちらから情報を吸収しないままではもったいないと思いませんか?もちろん私どもも「こうされたほうがいいですよ」「こういうことはしてはマズイですよ(現行モデルで言えば燃調などの改変でしょうか)」と明確に言えることと、お客様の好みによって選択肢があることとを分けているつもりです。
 
ちなみに私の体験談ですが、実はだいぶ若いころに一時期アマチュア無線を一生懸命やっていまして、買い物は秋葉原の量販店にばかり行っていた私に近所の先輩がわりと近くの小さなお店を紹介してくれました。社長さんが一人でやっていらしてやはり最初のうちは敷居が高く感じたのを覚えています。そのうち新しいスピーカーが欲しくなって、自分の無線機専用にメーカーから発売されていたモデルを買いに行きました。ところが社長さんはメーカーが同じでも別のモデルを勧めてきたのです。
そのほうが「音質がいいから」と言われましたが、専用のスピーカーのほうが当然無線機にデザインも合わせてあってラックに並べるとカッコイイのです。若輩の私は小さな店内をウロウロしつつ迷いに迷い、ようやく30分ほど経ってから(笑)勧められたスピーカーを買うことにしました。すると社長さんがごく軽い語調で「おめでとう」と言ったのです。そのときは内心(へ?)といまひとつピンと来ませんでしたが、いまこういう仕事をしていて、あのときの社長さんの気持ちがちょっとわかるようになったかもしれません。

だからと言って、プロの言うことにはなんでもかんでも黙って従え!!と言いたいのではないと、あらためて一応かいておきます。ですが、ネット上のさまざまな情報などに翻弄されているユーザーもあまりにも多いのです。ユーザー情報だから信用できる、店の言うことには商売がかかっている、と思われる方もいらっしゃるでしょうが、商売だからこそ一箇所で看板を掲げているからこそ真摯に対応したいと思う店もあるのです。ユーザーによる情報も良し悪しの基準が異なります。曰く「純正の○○より社外の○○のほうが調子良かった」そもそも純正の○○自体はきちんと作動していたのでしょうか?おまけに、古い雑誌でもご覧になったのでしょうかいまだに「○○はセッティング出ないから○○に換えないと」と断定的におっしゃる方までいらっしゃるのには正直閉口してしまいます。
見た目カッコイイからのカスタム、自分の使い方に会わせてのカスタムなら構いません。ですが性能面はウソはつけないと思っています。そもそも部品について「アッチよりコッチのほうが良い」という絶対評価は必ずしもできません。それぞれの性格付けやターゲットが異なるからです。解りやすいところでは、タイヤだってオンロード・オフロードの違いから、レース用・スポーツツーリング用とフィールドに会わせています。改造にしてもいろいろな経験を咀嚼し消化した方が次のステップとしてチャレンジするのはいいとして、それを経験値や環境が異なる人々まで同じように論じるのは問題です。
そもそもメーカーがチョイスした部品で構成されたオートバイが、結果的にそのメーカーのテイストを体現しています。せっかくイタリアの文化モトグッチをチョイスしてくださったんですから、まずはそのテイストを味わっていただけたらと思います。GUCCIのバッグにワッペン貼ったり刺繍したりは、たぶんなさらないでしょう?(笑)

少しノーマル非ノーマルの話に流れ過ぎました。すみません。ところで私も志賀も愛車を改造しております。闇雲に改造反対とは言うつもりもございません。

001.jpg

中古車のほうに話を戻します。
ネット販売や遠隔地のショップからの購入など、さまざまな形態でオートバイを買えるようになりました。クレームに持ち込むこともままならない遠隔地売買なんて勇気があるなあと思う一方、玉数が少ないので致し方ない面があるとも思っています。しかしながら現実にはとんでもない状態の車両が多くて、それらがリパラーレに持ち込まれています。ピカピカな外観なのに中身が・・・・そんな笑えないギャグのようなことだって頻繁に起きているのです。売り手に悪意があってのことかどうかは私にはわかりません。「調子はまあまあいい」という評価とともに持ち込まれる中古モトグッチにいざ手をかけてみるとヒドイ状態だったとしても、調子の良し悪しは残念ながら売り手の方の主観なのですから。そこが「見極めてください(売り手を、お店を)」とお願いしている点なのです。
ちなみにネットで「リパラーレで整備済み」という説明がつけられたものも見ましたが、調べてみたら(でも整備したの○年も前だぞ)とか(でもこの方は最低限の整備しかされなかったぞ)ということもあります。それでも「整備済み」という文言は少なくとも「ウソ」ではないですよね(笑)

まあいろいろありますが、先にも書きましたが玉数が少なく選択肢がないので、最近ではお客様も腹が座ってらして「どうせちゃんと走らないだろう」と予測したうえで、事前にご連絡までいただいてよそで買ってきたモトグッチを持ち込んでこられます。整備をさせていただいて、しかも日本にきたモトグッチが1台復調することにそのお客様が投資してくださることになるのでとっても有難いのですが、出費は相当なものになります。これが「当たり前」になって「中古グッチには金がかかる」と言われてしまうのは悲しいです。
そんなにあれこれ言うならリパラーレで中古車を揃えとけ!と言われてしまいそうですが、中古車の在庫よりできる限り部品の在庫のほうを大事にしたいので申し訳ありません。

さて、話の始まりは「倍返し」でしたが、上記中古車のような初めて触る車両の整備においては、イヤでも労力が「倍」かかることだってあります。定期的に整備されてこなかった車両は隠しイベントが盛りだくさんです。ネジ1本錆付いていたら普通に外れるべき部品一つ外すのに思わぬ労力を費やされることになります。前に整備をした方がとんでもない切った張ったをしてしまっていることもありました。もっとも極端な例は・・・・・何をしたかったのか不明ですがクランクシャフトのオルタネーター接合面をリューターかなにかで盛大に削ってしまったものだってありました。高回転運動しなければならないのでわずかでも重心が狂ったらクランクシャフトはアウトです。振れが生じないように持ち運ぶだけでも注意しなければならない部品なのに。またオイル下がりの症状が出ているモトグッチが持ち込まれ、バルブとバルブガイドを交換するためにヘッドをバラしてみたら、なんとバルブガイドが指でグラグラ動いた!ということもありました。バルブガイド交換をして圧入に失敗したのでしょう。これはヘッド交換になりました。中古車を買って、さらに大整備を課せられて、こんな倍返しが起きない業界になるとよいのですが。

だいぶダラダラと、かなり愚痴っぽくなってしまいましたが、ようやく「倍返し」に再びつなげたところで筆を置こうと思います。
よくご質問いただくのですが、よそで買われたモトグッチも整備させていただいておりますのでご遠慮なくご相談ください。「アイドリングしないんですがこんなもんですか?」「加速はこんなもんですか?」というご質問も絶えませんが、モトグッチに罪はなく、それは未整備箇所を貯めこんだ前オーナーの負の遺産のようなものですので、当たり前のことをきちんとすればちゃんと治ります。ただその出費を新オーナーが担うことになるのがお気の毒に思えてなりません。でも信頼してお任せいただければ「倍」までいけるかどうかわかりませんしお客様にはわかりずらい部分だと思いますが、いただくお金以上のことをモトグッチに乗っけてお返しできるよう頑張っておりますので。



2014/04/18追記

以前書き込みいただいていたコメントを誤って消去してしまいました。もうしわけありません。

ハンドルネームもすでにわからないのですが、ルマン3を買ってくださったお客様、おっしゃる通り今回材料として使わせていただいたのはお客様のルマン3ではございませんでした。
でも同じ精神で整備させていただきお届けいたしました。元気に走っているとのことで大変うれしく思っております。  升本



mas
  • -
  • -

シフトタッチ

01.jpg
 
このパーツがどこの部分かおわかりになりますか?
 
V11以前(カリフォルニアを除く)のモデルで使われているシフトリンケージの一部です。実は私のカリフォルニアのシフトペダルの遊び、と言うよりガタが調整だけではカバーできなくなったので、このパーツを交換することにしました。
 
右が今までついていたパーツで、左が新しいものです。右のパーツはだいぶ前に遊びを減らすべく下部ジョイントをスフェリカル・ジョイント(俗にピロボールと呼ばれています)に換えてありましたが、上部ジョイントの磨耗も進んでしまいました。
 
02.jpg
 
カリフォルニアの場合は特にリンケージが多いので、小さなガタでも「チリも積もれば・・・・・」で大きなガタガタになってしまうのですが、ルマンなどスポーツモデルでもこのわずかな差で劣化したシフトタッチがかなり改善されます。
合わせてシフトペダルのスラスト方向の締め付け調整も有効です。カチャカチャと音がする、全体のガタが多い、などご相談ください。音が出る、ガタがあるということはエネルギーの損失が起きているということです。足首の負担軽減にもなるのですから。
 
シフトタッチの話になりましたので

よく「2速から3速に入りづらい・・・ミッションになにか起きてるのでは?」というご相談をお受けします。・・・が大抵の場合ミッションの故障ではありません。オイルの劣化という場合と、多くはシフトペダルの調整不足とクラッチレバーの調整不足です。稀に「実は最近新しいブーツを買った」という例もありましたが(笑)
 
調整不足のまま、朝は身体が元気なので不具合に感じなかったものが、ツーリング後半になって疲れが出て足首の動きが悪くなって「3速に入りづらい」という現象につながることがあるようです。「3速」は単にいち例ですが、特定のシフトポジションだけ感じるというのは加速過程での乗り手のクセではないかと思われます。シフトドラムの設計や製作上、特定のポジションにだけ不具合があるということはないと思います。

リパラーレで納車するモトグッチにはペダルやレバーの高さなど最善と思われる状態に調整を施してありますが、オーナーさんがある程度乗り込んでわかる要求もありますのでお申しつけください。また、よそで買われたモトグッチでもご不満があれば放っておかずにご相談くださいませ。こんな小さな調整もファインチューニング、大きなお金をかけることばかりではありません。
 
mas
  • -
  • -

<< 3/7 >>

Home

Search
Feeds

Page Top