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天然ステダン

先日とある大手の2輪用品店でのこと、「天然ステダン」と書かれたポスターをみつけました。

「天然ステダン??」

よく読んでみると、「ステアリングベアリングの不具合からハンドリングが重くなりますよ」という意味のアピールでした。天然のステアリングダンパーが効いているということなのです。よくぞこんな言葉を思いついたものと感心した次第です。

こんなことを思い出したのは、ちょうど車検でお預かりしていたモトグッチにステアリングベアリングの異常が見つかったからです。



bearing

モトグッチはV7SPORTの時代から近年までずっと、ステアリングベアリングにぜいたくにもテーパーローラーベアリングを使用しています(V35Imolaなどのころの中間排気量車はボールベアリングです)。線接触のテーパーローラーベアリングは重過重に耐え、点接触のため比較的傷みやすいボールベアリングより優れています。

画像の整備車両、ルマン1000もテーパーローラーを使用していますので、ベアリングレースに線状の痕がついているのが見えます。




さて、ステアリングベアリングに異常が生じるとその多くの場合で「ステアリングダンパーが効いて」ハンドリングが重くなるというのとは異なる症状があらわれます。全体として重くなるのではなく、ある部分で引っかかるようになるのです。

これをチェックするにはフロントホイールを浮かせて、ゆっくりステアリングを回してゆけばわかると思います。ただし各ケーブルやワイヤーハーネスのテンションなども生じていることも認識しておかねばなりません。
ゆっくり回していって特定の位置で「コトン」となにかにはまって動かなくなるような箇所があるなら要整備です。特定の位置で止まるのは、先の画像にあった線にベアリングのローラーが収まってしまうからです。そして止まるのはほとんど直進時のステアリング位置です。


この状態で走るとどうなるか?
アールのキツイコーナーの連続ではライダーのアクションも大きくわかりづらいでしょう。たとえば大きなタイヤわだちのある直線を走っているとき、わだちの斜面に反応してステアリングが動かなければ真っ直ぐ走れず、ライダーは違和感を感じて余分な入力をします。高速道路の直線に近い大きなカーブでわずかにリーンしてるときも、路面の変化にスムーズにステアリングが追従しません。

いずれの場合も「コトン」とはまる部分のせいでセルフステアリング機能が自動的に行っていた外乱の吸収をしなくなるので「反応が鈍く重たい」というよりは「車体に妙な挙動が起きる」という具合にライダーに伝わるでしょう。(フラッやユラッと感じることがあると思います)




ステアリングベアリングは通常たっぷりグリスアップされた状態で組みつけられています。ですが常にロードがかかる様に調整しますので、グリスの劣化・グリス切れも伴なって接触部分の傷みは避けられません。
そして困ったことにステアリングベアリングはホイールベアリングなどとは異なり、行ったり来たりの往復運動の繰り返しをしていますので、テーパーローラーとベアリングレースはいつも同じ箇所同士を接触させることになります。しかもステアリング全体がどうしても直進付近の位置にあることが多いのでそこだけ損傷が進んでしまうのです。

またそれとは別に、ガタが生じたまま走ることによる損傷もあります。




グリスの入れ直しと締め付け調整を常々やっていればベアリングの損傷は防げるのですが、車検整備や12ヶ月整備でお預かりする際は、ガタのチェック・締め付けの調整まではしても、それ以上は単純に清掃&グリスアップだけでも付随する作業時間が多くてそれなりの技術料のご負担をおかけしますので、通常であれば数万kmは交換しない部分でもありますし、異常が確認されるか?それなりの走行距離に達しているか?他の整備の関係で合わせて?などでなければ特にお勧めしておりません。

ですから、頭の片隅に入れておいていただければと思います。
とても長い時間をかけて悪くなってゆくけど、いざそうなれば走りにおおいに影響するステアリングベアリングです。


mas

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