[19]
謎のアンモナイト

 MOTO GUZZI のインジェクションモデルにまたがると、それ以前のモデルには見られなかった構造物が目を引きます。アクセルグリップに応じて、左ひざの内側でクルクル動くのはスロットルバルブのプーリーです。インジェクションシステム搭載のエンジンには不可欠な部品ですが、縦置きVツインエンジンのMOTO GUZZI ならではで非常に目に付くのです。そして見てみるとそれは単なる円形でなく、化石でお馴染みのアンモナイトのような形状をしています。ワイヤーでただ引くだけならば造りやすいまん丸(真円)でよいものを、何故わざわざ凝った形のものを使っているのでしょう?
(((ちなみに---1 )))
それまでのMOTO GUZZI に使われていたデロルトキャブレターは、上下にスライドするスロットルバルブの開度でシリンダー内の負圧によって生じる吸入空気の流れを調整し、その気流によってジェットから適量の燃料が吸い出されていました。対してインジェクションシステムは、通路の中で開閉させるバタフライ式スロットルバルブによって吸入空気量を調整し、様々な情報を総合して計算された量の燃料をインジェクターから噴射します。
 さて、このアンモナイト型プーリーはどのような特性を持っているのでしょうか?
 <図1>をご覧下さい。グリップを開け始めるあたりでは径が大きく、支点から力点までの距離(a)が遠い為に引く力は少なくて済みます。しかし一定の引き代(b)を引いた時のプーリーの開度(c)は狭いので、グリップを大きくひねらなければプーリーは充分に作動してくれません。 一方、全開付近では径が小さくなり、支点から力点までの距離(a')が(a)より近くなる為に開け始めとの比較で引く力はより必要になりますが、一定の引き代(b)を引いた時のプーリーの開度(c')は(c)より広い為に、わずかなグリップ操作でプーリーが充分作動するのです。
 そして<グラフ1>はグリップ操作量に対するスロットルバルブの開度を模式的に示しています。どちらも車種によりグリップ開度とスロットル開度の関係が異なりますので単位をパーセントで示しました。またプーリーが単純に真円であった場合も示しています。アンモナイト型プーリーの持つ特性が何をもたらすかを真円のプーリーと比較しながら考えてみましょう。以下、ノーマルのアンモナイト型プーリーを「非線形プーリー」、真円のプーリーを「線形プーリー」と記します。
 <グラフ1>を見ると、非線形プーリーが低開度ではグリップの動きに比してスロットルの開き方が鈍く、大開度では敏感に設定されているのがわかります。そのわけは<図1>で説明した通りですが、これでは低回転域ではいくらグリップをひねってもなかなか回転が上がらず、高回転域に近づくにつれ過敏に回転が上昇するという、一昔前の2ストロークエンジンに似かよった印象を受けます。実際の走行もそうなってしまうのでしょうか?。この一見乗りづらそうな設定にはわけがあります。ところで今回のお話で、もちろんギアは固定です。この際、無変速のMOTO GUZZI があるものとして先をお読みください。
Technical Top